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ここから本文エリア 弘前大企画 がんの話
(55)適応障害とうつ病2009年01月30日 がんの告知はその人の人生の中で非常に大きな困難といえるかもしれません。がんの診断を受けることで悲しみの縁(ふち)に追いやられてしまう患者さんをよくおみかけします。この悲しみを1人で抱え込み、苦しみを背負い込むことで、抑うつや不安などの精神症状を現す方も決して少なくありません。 がん患者さんによく見られる精神疾患は、適応障害、うつ病、せん妄の三つです。今回は適応障害とうつ病について考えてみましょう。 適応障害とうつ病はどちらも気持ちが落ち込み強い不安を抱く心の病気です。適応障害はがん患者さんのうち4〜35%にみられ、うつ病は少なくとも3〜12%以上とどちらもかなりの頻度で認められます。 気持ちの落ち込み(抑うつ)は患者さんに悪い影響を与えます。意欲や興味がわかなくなるので生活の質が大きく低下します。がん治療への動機がなくなり(意欲が乏しくなり)医師の指示通りにきちんと治療を受けなくなる方もいらっしゃいます。ご家族の精神的な負担も大きくなります。 また入院期間が長くなり、さらには自殺の危険性が増すなど多岐にわたる問題に影響を与えるのです。がん患者さんの気持ちの落ち込みに対する適切なケア・治療は重要です。 適応障害は、がん患者さんに最も多くみられる精神障害です。適応障害とは、周囲の環境や状況(がんになった)にうまく適応できず、そのことがストレスとなって、いろいろな心身の症状(抑うつ気分、不安、睡眠障害、食欲低下など)が現れ、日常生活に支障が生じるまでになった状態をいいます。治療は精神療法と薬物療法に大別されますが、とりわけ精神療法(カウンセリング)は重要です。 とても不安が強く取り乱していた患者さんがいらっしゃいました。カウンセリングを重ねていくに従い、だんだんと落ちつきを取り戻されていきました。つらい胸の内を受けとめてもらえたことが大きな助けになったとその患者さんは言います。 不安で取り乱したのは何も自分だけではなくて、がんの告知を受ければ誰でもそんな状態になるということに気づかれ、気持ちが楽になられたようでした。その患者さんは現在では前向きに抗がん剤による治療を受けていらっしゃいます。患者さんの心のつらさが大きい時には薬物療法も行います。抗不安薬の内服で気持ちが楽になられる患者さんも少なくありません。 うつ病もがん医療の現場で多い精神障害です。がん患者さんの最大の苦痛の一つといえるでしょう。適応障害よりもさらに深いレベルの抑うつで、一日中気持ちが落ち込んでしまったり、今まで好きだったことが楽しめなくなる(興味の喪失)などの症状がもっと目立つようになります。 初老期や老年期のうつ病では不安感や焦燥感が強い場合があり、立ったり座ったり落ち着きなく部屋のなかを徘徊(はいかい)したり、時には激しくもだえ苦しむこともあります。思考力が大きく障害されることが多く、考えようとしても頭に何も浮かばず、自信がなく判断力、決断力が低下して、思考のテンポが遅くなり、考えが進行しなくなります(思考制止といいます)。 またうつ病の患者さんには、自己を実際よりも低く評価し(自分は罪深い、貧困だなど)、物事を悪い方にばかり解釈して取り越し苦労をするといった思考パターンがよく見られます。一般にうつ病は適切な治療で軽快し、がん患者さんの場合でも同様です。適応障害とおなじように、精神療法や薬物療法が行われますが、特に抗うつ薬の効果が期待できます。 最近では副作用の少ない抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬など)が主流になりました。抗うつ薬は効果が発現するまでに2〜4週間ほどかかります。効果発現の早い抗不安薬と併用する場合もあります。自分の考えがまとまらなくなっていたあるうつ病の患者さんは、抗うつ薬を内服してから元通りのテンポで考えることが出来るように回復し、ご家族と大事な会話がようやくできるようになったといいます。 適応障害やうつ病は精神科医による治療を必要とする場合があります。しかし患者さんの中には精神科に抵抗を感じる方が少なくないようです。最近では緩和ケアチームに精神科医が参加することが多くなりましたので、以前よりも相談しやすい環境になってきたと思います。 つらさと支障の寒暖計をご紹介します(図)。これは国立がんセンターで開発されたもので、簡便に適応障害とうつ病を見つけることができます。ご自分やご家族の気持ちのつらさと日常生活の支障の二つの寒暖計に○をつけてみてください。 気持ちのつらさが4以上でなおかつ日常生活の支障が3以上の方は適応障害やうつ病の可能性が高いのです。該当する方は精神的なストレスを抱え込んでいる可能性があります。主治医や看護師などの医療関係者に相談されて精神的なサポートを求めて下さい。
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