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ここから本文エリア 弘前大企画 がんの話
(57)生を全うするのを援助2009年02月13日 がん患者さんが抱えるさまざまな苦痛をやわらげ、最期まで患者さんが自分らしく生活できるように、専門的な知識と技術を提供する病棟や施設は「ホスピス」や「緩和ケア病棟」などと呼ばれています。 ホスピス・緩和ケア病棟を「死ぬための病棟」と考え、この病棟にだけは入れたくなかった、というご家族がおられました。このような誤解をお持ちの方は多いのではないでしょうか。今回は、ホスピス・緩和ケア病棟では、どのようなことが行われているのかを紹介したいと思います。 ホスピス・緩和ケア病棟は国が定めた一定の基準を満たした施設に対し、医療保険から定額の医療費が支払われます。その施設基準は、主として末期の悪性腫瘍(しゅよう)の患者さん、または後天性免疫不全症候群の患者さんを対象としています。 看護師の数は入院患者さん1・5人に1人以上、常勤の医師がおり、その他の態勢や構造設備が基準を満たしていることです。 現在、青森県内には、緩和ケア病棟が青森市の青森慈恵会病院と藤崎町のときわ会病院にあります。 入院の目的は施設によってやや異なりますが、次の三つが一般的です。(1)生活の場→看取(みと)り(2)症状のコントロール(3)介護者の疲れを癒やすための短期入院(レスパイト入院=介護保険のショートステイと同じ考え)です。 入院の条件としては病名告知がなされており、患者さん自身がホスピス・緩和ケア病棟への入院を選択してこられるのが理想です。 しかし、病名が知らされていなくても、私たちの病棟では入院後に病気のことを質問されたら真実を伝える、というご家族の了解のもとで入院していただいています。 緩和ケアの最終目標は「その人がその人らしい生を全うするのを援助する」ことにあります。 実際には(1)疼痛(とうつう)などの症状の緩和(2)心のつらさへの配慮(3)チームによる患者・家族の支援(4)コミュニケーションなどを大切にして、患者さんや家族とかかわっています。 ホスピス・緩和ケア病棟には医療とケアの二つの側面があり、どちらか一方だけができても十分とはいえません。一人の優秀な医師がいても最終目標を達成することはできないのです。病状が深刻になればなるほど苦しみの原因が多彩となり、複雑になるからです。 身体的な苦痛だけではなく精神的な苦痛、ご家族との関係、これまでの生きかた、自己の存在などにかかわる苦痛を和らげるには、医師・看護師・その他の看護職員や他の専門職、ボランティアなどがチームを作って患者さん・家族を支援していく態勢が必要です。ペットや花なども「チームの一員」なのです。 私たちの緩和ケア病棟は全室個室で一部の部屋のみ室料差額をいただいています。一般病棟と異なり、付き添いは自由ですし、ご家族の都合のよい時間においでいただくことができます。お部屋はご自分の居室として使っていただいています。 愛用のいすやテーブルなどを持ち込んで最後の時間を過ごされた方、疼痛が軽減して気持ちが楽になり薄化粧して過ごされた方、風呂付きの部屋に入られて毎日入浴していた方など、患者さん個人の好きなように過ごしていただいています。 入院3日目に亡くなった中年の患者さんがおられました。緩和ケア病棟への入院は患者さんの大好きな愛犬と一緒に過ごさせてあげたいというご家族の希望からでした。 全身状態の悪化とモルヒネ大量使用で会話ができない状態でしたが、ご家族は身体に触れるだけでも痛いという患者さんの苦痛を軽減させ、少しでも話ができるようにして欲しいと希望されました。 そこで即日モルヒネを減量して鎮痛補助薬を加えたところ、身体に触れるだけでは痛みを示さなくなりました。入院翌日、家族は2カ月ぶりの入浴を希望されました。 しかし、血圧が低下してきており、入浴による命の危険が高いと判断されたので、担当看護師が家族と相談し、子供さんの到着後の入浴となりました。 この日は土曜日で午後のスタッフが少なかったのですが、入浴ボランティアとして2人のスタッフが残ってくれました。特殊な浴槽に入った患者さんの足を、ご家族が丁寧に丁寧に洗ってあげたそうです。 夕方、前日に続いて愛犬が来ました。愛犬がほえた声を聞いて患者さんが犬の名前を呼んだとご家族が笑顔で教えてくれました。 翌朝、患者さんは亡くなりました。患者さんと家族との会話は残念ながら、かないませんでしたが、お互いの気持ちは十分に伝わったと感じました。 入院していると日常生活の変化があまりありません。そのため、病棟では四季折々の行事やミニコンサートなどを企画し、患者さんだけではなく、ご家族にも参加していただいています。 年末の餅つきは好評でした。もちろん患者さんがお餅をつくわけではなく、見ているだけなのですが、つきたてのお餅を食べるのが患者さんの係でした。つきたてのあんこ餅・磯辺餅・きなこ餅などはとてもおいしく、翌日にも希望される患者さんがおられたほどです。 我が国の緩和ケアの先駆者である淀川キリスト教病院名誉ホスピス長の柏木哲夫・金城学院大学長は、ホスピス・緩和ケア病棟と一般病棟との違いはコミュニケーションである、といっています。 コミュニケーションを通じて、最期の時まで患者・家族の思いを大切にしていくのがホスピス・緩和ケア病棟の理念です。 入院して来られる多くの患者さんの最終の到達地点は確かに死なのですが、しかし、死に焦点を当てるのではなく、生に焦点を当てるのがホスピス・緩和ケア病棟です。 がんの緩和ケアは、がんと診断されて、辛(つら)さが自覚された時点に始まります。 ホスピス・緩和ケア病棟は、病気が進行して治療が困難となった末期の患者さんや家族に対して、その人らしい生を全うするための援助を提供する場なのです。 次回は、在宅緩和ケアについて説明いたします。(医療法人ときわ会 ときわ会病院緩和ケア科 科長馬場祥子)
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