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弘前大企画 がんの話

(58)在宅ホスピス・緩和ケア

2009年02月20日

 苦痛を和らげ、がん患者さんが最期まで自分らしく生活できるように専門的な知識や技術を提供する施設が「ホスピス」「緩和ケア病棟」であることは、前回ご紹介しました。ホスピス・緩和ケア病棟の理念に基づき家庭で行われるケアを「在宅ホスピス」あるいは「在宅緩和ケア」と呼んでいます。

 昔のお医者さんの“往診”を覚えておられますか。

 往診というと、黒いかばんや聴診器を持ったお医者さん像が浮かんできます。往診の担い手は医師で、看護師は助手的な存在でした。

 今でもこのような往診はあります。しかし、在宅ホスピス・緩和ケアは、医師だけが患者宅に出かけて行う医療ではなく、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、ケアマネジャーなどの専門職が連携してホスピス・緩和ケアの理念をもって行うケアです。

 在宅ホスピス・緩和ケアは「ホスピス・緩和ケア」と「在宅ケア」の二つのケアから成り立っています。

 ホスピス・緩和ケアは前回紹介したホスピス・緩和ケア病棟におけるケアと基本的には同じで(1)疼痛(とう・つう)などの症状の緩和(2)心のつらさへの配慮(3)チームによる患者・家族の支援(4)コミュニケーション重視(5)24時間、週7日間対応のケアです。

 一方、在宅ケアとは医師、看護師による訪問診療で、緊急時の入院態勢ができていることを前提としています。

 在宅ホスピス・緩和ケアでは病院と同じことをしてもらえるのですか、と質問されることがあります。病院と同じことをするのが在宅ホスピス・緩和ケアではありません。

 それは、一般に病院では医療が中心ですが、在宅ホスピス・緩和ケアでは患者さんの日常生活を最優先にするからです。疼痛や苦痛の緩和は積極的に行いますが、その他の医療処置は必要に応じてできるだけ簡単で確実な方法を用います。

 また、在宅ホスピス・緩和ケアでは訪問看護師が重要な役割を担っています。訪問看護師には患者の状態を把握して医師に連絡したり、病状に対応する方法を家族に指導したり、予測される変化を家族に教えたり、患者の状況に合った社会資源の活用を検討したり、日常生活や病気の相談を受けたり、その他多くの働きがあります。

 訪問看護師は、患者さんや家族に安心を与えるとても重要な存在です。

 以上は在宅ホスピス・緩和ケアにおける医療者側の要件ですが、患者さん側の要件としては何があるでしょうか。

 それは在宅でケアしてほしいという患者さんもしくはご家族の希望に尽きます。ただし、患者さんがどんなに在宅を希望しても、ご家族が反対している場合には在宅ホスピス・緩和ケアは困難です。

 東京墨田区で、10年以上在宅ホスピスにかかわっている「グループバリアン」代表でホームケアクリニック川越の川越厚医師は、在宅でのホスピスケアを可能にする第1条件は「家族の愛」、その次に「自分自身のいのちを最期まで生き抜く」という患者さんの主体性だと述べています。

 つまり「家で死にたい」というはっきりした希望を患者さんが持っていれば、あとは何とかなる、というのが川越先生の考えです。

 在宅で看取(み・と)らせていただいた一人の患者さんがいました。雑誌「いきいき」に掲載された、患者さんのお母様の言葉を一部お借りして、ご紹介します。

 患者さんは30歳の女性で15年間あらゆる治療を受けながら病気と闘ってきましたが、その手段もとうとう尽きたと医師から宣告されました。

 患者さんはこれまですべてを自分で決めてきた方で、治療の限界といわれたことは信頼してきた医師から見放されたと感じたようでした。

 家で痛みに苦しむようになった娘さんに、ご両親は痛みをとってもらって生きていくという選択もあるんだよと説得され、私の外来を受診されました。

 途中で一時入院していただき、在宅緩和ケアに移行した夏のある日、外は暑かったのですが、彼女の寝ている部屋にはとても良い風が入ってきていました。いい風が入ってくるのねというと、彼女から「今は幸せ。いい風も入ってくるし」という穏やかな返事が返ってきました。

 病状が悪化してお姉さんと妹さんが家に帰ってきて、家族一緒に過ごした翌日、彼女は「昨夜は家族みんなでとっても楽しかった」と教えてくれました。

 さらに「ずっと一人で頑張ってきた。自分できちんと気持ちの整理をし、気持ちを閉ざしてきたから頑張れたと思っていた。だけど今は違う。楽しかった分、かえって悲しくなった」と、気丈な彼女は話してくれました。

 そして、亡くなる6時間前、一時的に意識がなくなりました。再び意識が出てきた時、泣いている家族に向かって「今のはリハーサルだよ。みんな演技下手だねえ」と言ったそうです。そのユーモアは悲しみの中にいる家族さえも和ませてくれるものでした。

 彼女は自分の慣れ親しんだ環境の中で、ご両親や姉妹の愛情に包まれて最期まで生き抜きました。15年間病気と闘っていた時の彼女は、家族の中にいても独りぼっちだったのかもしれません。

 しかし、在宅で過ごしているうちに彼女は自己成長し、家族との関係を自分で再構築して旅立ったと思います。家庭で過ごしたからこそ、このように素晴らしいことが起こったのだと思います。

 在宅ホスピス・緩和ケアは、家で最期を迎えたいと思う患者さんと、患者さんの希望をかなえてあげたいと思うご家族の気持ちを大切にし、患者さんの命を次の世代に引き継いでいくお手伝いをするケアだと思っています。

 また、逆に、ホスピス・緩和ケアを通して、私たち医療側が提供している援助以上のことを患者さんやご家族から学ばせてもらっている場であるとも感じています。

 残念ながら、青森県には在宅ホスピス・緩和ケアを行っている医療機関は多くありません。在宅ホスピス・緩和ケアを希望される方は病院の主治医や看護師、あるいは地域連携室、医療相談室、患者・家族相談室などにご相談してみてはいかがでしょうか。
(医療法人ときわ会ときわ会病院緩和ケア科科長・馬場祥子)

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