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ここから本文エリア 弘前大企画 がんの話
(66)第4回講演会の質疑(上)2009年04月17日 今回と次回は、この連載を執筆している弘前大医師が講師となり、3月20日に八戸市で開かれた第4回講演会「青森県でがんを治すにはどうすればよいか〜緩和ケアは治療開始と同時に始まる」で、皆さんからいただいた質問に対する回答をまとめます。分かりやすくするために若干の修正と加筆をしています。回答は、佐藤哲観講師(医学部付属病院麻酔科・緩和ケアチーム)です。 ●質問 がん難民がたくさんいると聞きますが、なぜですか。 答え 「がん難民」とはもともと、さまざまな事情で標準的ながん治療(現存する治療で最も効果的と証明された、あるいは妥当と考えられている治療法という意味)を受けられない人々をさす言葉でした。 しかし、現在は意味合いが変わってきています。治療による効果が期待できなくなった患者、治療中だが心身ともに疲れ果ててしまった患者、ちまたにあふれるさまざまな情報の真偽がわからず、最善策を判断できずに悩んでいる患者、安心して療養できる環境が得られない患者、またこういった患者を支えている家族……これらすべてを「がん難民」というようになっています。 標準的な治療が受けられない「がん難民」ですが、たとえば、外国では実績が上がっている抗がん剤のうち、日本ではまだ承認されていないものがあり、その意味では「がん難民」化している患者が相当いるものと推定されます。しかし、わが国ですでに承認されている抗がん剤を用いる場合、がんの種類や進み具合に合わせて治療はかなり標準化しており、地域間や病院間の格差もありません。その点での「がん難民」は少なくなっていると思います。 しかし、がんに対する治療と同時に、からだや心のつらさを手当てする緩和ケアは全国的に未整備であり、過ごしたい場所で安心して治療や療養ができるとは限らない、という現状は確かにあります。 また、医療従事者の心ない言葉や態度に傷ついて医療への不信感を抱き、「がん難民」化してしまうという不幸な事態も決して少なくありません。また、がん患者やその家族の、わらをもつかみたいという心情につけ込んだ「もうけ主義」による民間療法の類や商品購入への勧誘、単なる経験談や思い込みといった信頼性の乏しい情報などが雑誌やインターネット上にはんらんしていることも、「がん難民」を生む大きな原因と思われます。 医療従事者、とくにがん診療の現場を支えている医師や看護師は、どの医療機関でも多忙を極めており、一人ひとりの患者あるいは家族と十分な意思の疎通を図ることが難しいという事実も、構造的な問題として無視できません。 患者や家族と誠心誠意向き合って最善を尽くしたい、というのはすべての医療者に共通の願いですが、それを実行するためには多大な努力と献身性が求められます。医療全体の構造を改善し、医療者の必要かつ十分な個別的対応が可能となり、その誠意と労力が報われるような体制が確立されれば、患者側も医療者側も互いにハッピーになると思うのですが、皆さんはどのようにお考えでしょうか? いずれにしても、患者・家族が医療従事者と十分なコミュニケーションを取って互いが歩み寄れれば、多くの問題は解決できると思います。 ●質問 緩和ケアとは、「医学的治療」でしょうか、それとも「看取(み・と)り」のことをそう呼んでいるのでしょうか。 答え 以前のがん医療では、ぎりぎりまで治療が行われ、いよいよ治療が限界となって中止せざるを得なくなった時に緩和ケアが始まっていました。しかし、その緩和ケアは名ばかりで患者や家族は苦しんでいた、ということが当たり前でした。 患者や家族はもちろん、医療従事者の多くも緩和ケアの本来の意味を知らなかったことがその原因でした。「緩和ケア=医療や闘病における敗北」という構図が暗黙のうちにできあがっていたのです。 しかし現在は違います。緩和ケアは患者や家族の生活の質を高めることが目的であり、末期の諸症状を緩和するだけとか、患者の話をただじっと聴いているだけとかではありません。治療や療養に関連する問題点を評価して適切な支援策を講じること、しかもそういった営みを病気の早期から積極的に行うことが常識となりつつあります。 末期や看取りの時期は、からだや心のつらさが患者にとっても家族にとってもピークに達することは確かでしょう。ホスピスや緩和ケア病棟も、当初はすべての治療が終わった末期患者の療養場所としてスタートしました。 でも、がん患者がつらくなるのは末期だけでしょうか? 病気が診断されてその説明を受けると、大きな衝撃で生活に多大な影響が出ますし、治療中や経過観察中にもさまざまなつらさを抱えることになります。話題となっている「がん難民」の方々はとてもつらいはずです。からだや心のつらさが生活に支障を与えるようであれば、緩和ケアは病気の時期を問わずに、いつでも提供されるべきなのです。 緩和ケアは、からだや心のつらさをどのように評価して治療するか、という医学的あるいは看護学的な側面(緩和医療とも呼ばれます)が理論的な支柱として重要ですが、自然科学だけではなく、人として抱えるさまざまな苦悩を考える上で哲学、倫理学、宗教学といった人文学系の英知にも支えられている奥の深い分野でもあります。 もちろん、そういった学問的な裏付けがあって緩和ケアは進歩していますが、昔も今も、また洋の東西を問わずにもっとも大切なのは、医療者・介護者や家族が真心をこめて患者を終始支え続けるという心構えだと思います。 緩和ケアは、現在のところがん医療で強調されていますが、将来は医療や介護での基本的な心構えとなっていくことが理想と考えます。 ●質問 県内に緩和ケア病棟はあるのですか? 答え 緩和ケアを専門とする「緩和ケア病棟」は、厚生労働省が定める一定の基準を満たした承認施設に設置されています。現在県内には青森慈恵会病院(青森市、30床)と、ときわ会病院(藤崎町、20床)の計2施設、50床があります。 ●質問 一般の病棟ではどのようなケアをしていますか。 答え 県内五つの拠点病院(地域がん診療連携拠点病院)は緩和ケアチームを設置し、痛みやからだのつらさを緩和する専門医師、心のつらさを緩和する専門医師、十分な緩和ケアの経験を持つ看護師などのメンバーをそろえています。 ただし、緩和ケアチームのメンバー構成や実際の活動内容は病院ごとに異なっています。拠点病院以外は、がん治療にあたる主治医や病棟看護師ができる範囲でケアをしています。一般の病院でも、からだの痛みやその他の症状に対して薬物療法が行われ、看護師も熱心にケアをしていると思います。往診でケアを行う開業医はまだ少ないのが現状です。 また、緩和ケアは介護の力がとても重要ですが、わが国は医療と介護の連携がうまくとれていないというのが実情です。 いずれにしても緩和ケアは、それを担う医師、看護師、その他の医療職の知識、技術と経験によるところが大きいため、地域間または病院間の格差を生じているのが現状でしょう。 がん対策基本法という法律で、患者がいつでもどこでも切れ目ない質の高いケアを受けられるように、がん診療に携わるすべての医師を対象とした研修会を開くことになり、県内でもすでに何回か行われています。今後も医師だけでなく多くの医療従事者を対象に、コミュニケーションの技術を含めた緩和ケアの基本教育が展開され、県内全体のレベルアップが図られると思います。 【「がん」の質問募集】 本連載ではがんに関する質問を受けています。どのような内容でも結構です。下記まで質問をお寄せ下さい。読者のみなさんが日ごろ持っておられる疑問を、ほかの方もお持ちかもしれません。 ただし紙面の都合上、すべての質問に回答できかねることがあります。あらかじめご了承ください。 あて先 〒030・0862 青森市古川2の19の14 朝日新聞青森総局「がん質問箱」係 ファクス 017・722・8461 電子メール aomori@asahi.com
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