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弘前大企画 がんの話

(87)Q&A 健康食品・サプリメント

2009年10月16日

 ■質問 がんに対して予防効果があるという健康食品やサプリメントが、テレビとか週刊誌で宣伝されています。本当に効果があるのでしょうか。

 ■答え 難しい質問です。ただし、私たちは今、毎日のように健康食品やサプリメントの宣伝の嵐の中にいるわけですから、これに対する正しい「考え方」(向き合い方)を身につけておく必要があります。

 「この健康食品・サプリメントはがんの予防に有効です」と謳うには「科学的な証拠」が必要です。先週のこの欄で、がん検診、禁煙、肥満予防、禁・節酒ががん予防に重要と書きましたが、これは十分な科学的根拠がすでに示されています。

 しかし、読者のみなさんが耳にしている健康食品やサプリメントはどうでしょうか。

 まず、科学的根拠とはどういうことでしょう。簡単に分かりやすく説明するために、「ベータカロテン」をめぐる研究についてお話します。

 ベータカロテンは、一部がビタミンAに変わるビタミンの一種です。かつては「夢の食品」とまでもてはやされ、細胞や遺伝子を傷つける活性酸素の働きを抑えることで、がんの予防効果があると期待されました。それを支持する論文も数え切れないくらいありました。

 ところが、このような期待は欧米の研究でひっくり返されたのです。

 代表的な米国の研究(1996年)を紹介します。約2万人の喫煙者・過去喫煙者、または仕事でアスベスト(石綿)《注》を扱った経験のある男性、つまり肺がんのハイリスクグループ(肺がんになりやすいグループ)を、無作為(人為的でなくまったくの偶然)に二つのグループに分けました。

 二つのグループは年齢、身長体重、喫煙本数、飲酒習慣、食事の趣味、運動習慣のいずれもほぼ同じです。そこが「ミソ」なのです。

 一つのグループにはベータカロテン(30ミリグラム=0.03グラム)とビタミンAの入ったカプセルを飲んでもらい、他のグループには偽薬の入ったカプセルを飲んでもらいました。そして、4年間の追跡調査を行いました。

 その結果、ベータカロテンやビタミンAのカプセルを飲んだグループの肺がん罹患率(発生率)が偽薬のグループより28%も高かったのです。この中間結果を見て研究者らは、この段階で研究を中止してしまいました。

 このような研究方法は「ランダム化比較試験」と呼ばれ、かなりのお金と時間がかかりますが、科学的証拠を示すには最高の方法と認められています。

 しかも、この研究がすごいのは、カプセルを飲んだ人も飲ませた研究者も、だれがどちらを飲んだかを最後まで分からなかったことです。こうすれば、結果を都合よく操作することができません。

 「ランダム化比較試験」に次いで、信頼性の高い研究方法が「前向きコホート研究」です。例えば、「ベータカロテンを多く摂取しているグループ」と「そうでないグループ」を追跡調査し、2グループの肺がんなどの発生率や死亡率を比べる方法です。何年か経過して、多く取っているグループの肺がん死亡率や発生率が低くなれば、「予防効果あり」と判定します。

 しかし、無作為に二つのグループに分けることはしません。だから、多く摂取しているグループが、そうでないグループよりも他にも健康に良いこと(がん検診、運動、たばこを吸わないなど)をしている可能性が生じます。そのような健康に良い行動が結果に影響を及ぼすことが否定できませんが、一定の信頼を置くことができます。

 科学的根拠とは、ランダム化比較試験や前向きコホート研究のような質の高い研究、しかも複数の研究で同じような結果が出た場合を指します。かなりハードルの高いものです。

 ベータカロテンは、今回紹介した研究ではがんの危険性を高めるという予想外の悪い結果が出ましたが、別の研究では、予防できない代わりに危険性も高めない、または予防効果があるという結果も出ています。つまり、まだはっきりとした結論は出ていないのです。

 申し上げたいのは、「夢の食品」とまで言われたベータカロテンでさえこのような有り様だということです。

 残念ながら、今、がんの予防になるとして販売されている健康食品・サプリメントにはその科学的根拠はほとんどありません。ただし、同時に申し上げなければならないのは「効かないという科学的根拠もない」ということです。

 健康食品・サプリメントでは、ランダム化比較試験や前向きコホート研究のように人間集団による「壮大な研究」がほとんどなされていません。なぜでしょうか。

 有望な健康食品が現れた場合、研究者は関心を示し、いろんな実験をします。そこで「これはすごい」という結果が出たごく一部の食品についてだけ、ランダム化比較試験や前向きコホート研究が行われるのです。残念ながら今ある健康食品・サプリメントでそこまで至った例はほとんどありません。

 その前段階で、「見込みが薄い」との判断が働いたり、膨大な費用をつぎ込むほどではないと考えられたりした可能性があります。

 「がんを予防した!」という体験談では信頼は得られません。

 「学会の発表」にも気をつけてください。学会で発表された内容は、厳しい審査を経たうえで論文として公表されて初めて科学的根拠ありとされるからです。動物実験だけの結果も根拠になりません。人間集団のなかで確認される必要があります。

 禁煙、肥満予防、禁・節酒などは、がんを予防するという多くの前向きコホート研究の結果があります。大腸がんと乳がんの検診もランダム化比較試験で、「予防効果あり」の結論を得ています。

 肺がんの検診は、欧米ではランダム化比較試験で「予防効果なし」とされる一方、日本では、前向きコホート研究より信頼性が劣る症例対照研究の結果、「予防効果あり」とされ、いまだ論争中です。胃がん、子宮がんもランダム化比較試験はしていませんが、症例対照研究で「予防効果あり」とされています。

 筆者の考えを述べます。科学的根拠のある禁煙、肥満予防(適切な運動と食生活)、禁・節酒、そしてがん検診を優先させることが、現時点で最も正しいがん予防(一次と二次を含んだ予防)です。健康食品の効果に期待しすぎるのは要注意です。
弘前大学大学院社会医学講座教授 中路重之)

 《注》アスベスト(石綿) 自然界にある繊維状の物質。熱・電気を通しにくいため、防火・保温、電気の絶縁などに用いる。吸い込むと悪性中皮腫や肺がんの原因となるため、使用が規制されている。

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