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ここから本文エリア 弘前大企画 がんの話
(92)Q&A 治療に伴うリスク2009年11月20日 ■質問 知人ががんで入院した際、「中心静脈栄養」という治療を受けて具合が悪くなったと聞きました(詳細は不明です。致命的ではなかったようです)。中心静脈栄養とはどんな治療方法で、どのようなリスクがあるのでしょうか。 ■答え 抗がん剤を投与する時や栄養状態が悪い患者さんには、しばしば中心静脈栄養カテーテルという管を挿入します。食事が十分取れない患者さんだと、腕などの細い静脈からの点滴では十分な栄養を投与できないからです。 栄養状態を改善するための管は、より太い血管に入れる必要があるため、肩にある鎖骨下静脈からの挿入が一般的です。ところが、図のように鎖骨下静脈のすぐ奥には鎖骨下動脈が走っており、肺もすぐ近くにあります。 ですから、鎖骨下静脈に管を入れるにあたって、針を刺し込む穿刺(せん・し)は常に危険を伴います。過って動脈を穿刺すると大量出血を起こすことがあり、肺の穿刺は肺から空気がもれて肺が小さくなり呼吸が苦しくなる気胸の恐れがあります。 これらの合併症(この場合は治療に伴うリスクを言います)を全く起こさないようにするのは、今のところ難しいと考えられています。顔や声が人それぞれ違うように、静脈や動脈の位置や肺までの距離は患者さんによって微妙に異なり、どんなに手技に慣れた医師でも、これらの合併症はある確率で起きます。 医師として合併症をできるだけ起こさないようにすることも大事ですが、確率がゼロでない限り、最も注意を払うべきことは合併症にいち早く気づき、最悪の事態を避けることです。 動脈や肺の穿刺の多くはその場で気づくものですが、あとから大量の出血や気胸が判明する場合もあります。医師や看護師など医療スタッフは挿入後も、患者さんの突然の貧血や血圧の低下、呼吸困難、胸痛などに注意を払う必要があります。そして、これらが起きた場合は最悪の事態、つまり患者さんの命にかかわることのないように速やかに最善を尽くすことが最も重要です。 もちろん、合併症を起こさないためにさまざまな器具や手技の改良も進んでいます。以前は鎖骨下静脈にカテーテルを挿入するために穿刺する針は、カテーテルより一回り太いものでした。今はより細い針を使い、細いワイヤを血管の中に入れた後にカテーテルを沿わせて挿入するキットが一般的になっています。 超音波で血管をみながら細い針を挿入する方法も一部の施設で始まっており、今後さらに合併症が減る可能性もあります。しかし、合併症がなくなることはないでしょう。 中心静脈栄養カテーテルの話は一つの例ですが、今日では説明と同意(インフォームド・コンセント)が一般的となり、医師が患者さんに医療行為の説明をするようになってきています。多くのがん診療では、同意書に患者さんにサインをしていただいて初めて医療行為がなされます。 患者さんは、医療スタッフからの説明なんて面倒という印象をお持ちかもしれません。しかし、治療を含めた医療行為は今、患者さん自身の希望や意見を反映するようになってきています。 ほとんどすべての医療行為に合併症や偶発症を伴うリスクがあることも含め、患者さん自身がこれから受ける医療行為を理解する必要があります。積極的に話し合いに参加していただけると幸いです。 がんの治療の説明は、生死にかかわる合併症が起きる可能性も含めて話す必要がある場合もあります。少なくとも配偶者などご家族にも理解いただく必要があるでしょう。 もちろん、お示しした治療方法に同意いただけないこともあり得ます。例えば、中心静脈栄養カテーテル挿入の説明をして同意していただけなければ、一般的な腕からなどでの点滴で抗がん剤などを投与し、できる範囲で栄養を補うことも可能です。 今はさまざまな治療について、どのような合併症がどの程度の確率で起こるかも各学会などで調べ、どうすれば起こらなくなるか、少なくなるか常に議論しています。実際に、一つ一つの手技や治療による合併症は減っていると思います。 しかし、一般の方は最近、合併症の話をよく聞くようになったと感じるかもしれません。合併症に対する患者さんの不満の声も増えているように医師の側も感じています。科学や技術の進歩で、より効果的だが、その分危険度も高い治療法が出てきていることも原因の一つと思います。 合併症は医療行為のなかで常に起こり得ます。そのときにどう対処するかが医師として最も大事と感じていることを再度記して、今回のお話を終わりたいと思います。
マイタウン青森
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