ここから本文エリア 新宿駅東口、15坪のファストフード店 繁盛のワケは?2010年8月25日
JR新宿駅東口改札のそばに、1日平均1500人の客でにぎわう個人経営のファストフード店がある。15坪(約50平方メートル)と狭い店ながら、メニューは100種類を超え、1日平均60万円以上を売り上げる。チェーン店優位の時代、これほど支持されるのはなぜか。こだわりの味をテーマに副店長が本を書いた。 店の名は「ビア&カフェ ベルク」。JR新宿駅の駅ビル「ルミネエスト」の地下1階にある。東口改札から徒歩30秒。1970年代の新宿の雰囲気をどことなく漂わせ、サラリーマンや買い物客ら老若男女が顔を出す。父が始めた喫茶店を継いだ店長の井野朋也さん(49)が、90年にセルフサービス式で開業した。 人気を支えるのが、巨大ターミナル駅という立地に対応した多彩なメニューと、こだわりの味だ。井野さんのパートナーであり、20日に著書「食の職〜小さなお店ベルクの発想」を出した副店長の迫川(さこかわ)尚子さんは「味だけは絶対、譲れなかった」と話す。 低価格を保ち、高いテナント料をまかなうには、客をいかに回転させるかがカギ。目指したのは「毎日来てもらえる味」だった。「化学調味料を使えば一時的に客が飛びつくがすぐに飽きられる」。それが化学調味料に頼らないメニューにつながった。 「15坪という逆境が知恵と工夫を生んだ」と言う。貯蔵スペースが小さいので、業者への食材の注文は毎日。メニューは作り置きせず、客の注文に合わせて用意する。スピード勝負の分、多い時間帯は8人のスタッフが忙しく働く。小さな店に、社員とアルバイトの総勢40人が1日3交代制で勤務している。 コーヒー、パン、ソーセージの「食材の3本柱」は、いずれも商店街で個人店を経営する「職人」に特注した手作り。街を歩いて交渉し、独自の調達ルートを開拓した。 メニュー開発にも工夫を凝らす。例えば、ランチセットの「エッセンベルク」(税込み714円)は、パンにレバーパテ、豆のサラダ、牛肉と大麦のスープなど、30種の食材を使う。 いったん出し始めたメニューは客が1日1人でもいる限り残すのも特徴だ。結果、メニューは増え続け、それに合わせて客足も伸びた。 迫川さんは著書で、こうしたメニューの開発秘話や、職人との出会い、そのインタビューなどを通じ、味へのこだわりをつづった。店長の井野さんが2年前に出し、2万部が売れた「新宿駅最後の小さなお店ベルク」の続編でもある。 二つの本に通じるのは「個人経営の店の生き残りがむずかしい時代だからこそ、個人経営の店の良さを知ってほしい」という思いだ。 ベルク自身、3年前にファッションビル化を進める駅ビル側から退店を求められた。迫川さんらは続けるか悩んだが、客の声に勇気づけられた。インターネット上に応援ブログができ、存続を求める署名がこれまでに1万5千人分近くも集まった。「個人店それぞれに悩みがあるはず。それを乗り越え、信じた道を進んでほしい」と迫川さん。 「食の職」はブルース・インターアクションズ(港区)から出版。272ページ。1680円(税込み)。(武井宏之)
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